私が小学生のころ(平成5年)に始まったスラムダンク。
当時は一大バスケットブームが到来しました。
スラムダンクの連載・アニメが終了してもなお、その人気は根強いものがありますよね。
ましてや映画化が決定しましたもんね。
30000RT:【発表】『SLAM DUNK』アニメ映画化が決定https://t.co/h5GnuXoHFt
ティザーサイトとツイッターアカウントが開設され、東映アニメーションからも「“新しいアニメーション映画”を制作中です」と発表された。 pic.twitter.com/A5qiawTluP
— ライブドアニュース (@livedoornews) January 7, 2021
そんな懐かしいスラムダンクを、大人になった今読み返してみると
と、スラムダンクの作品で描かれたある一場面に、元物理教師の私は違和感を覚えました。
本日はそんなお話です。
スラムダンクに登場する赤木式問題集<物理>
説明不要かもしれませんが、スラムダンクについて簡単におさらいしておきます。
スラムダンクとは、1990年から1996年にかけて週刊少年ジャンプで連載された漫画(全276話)でアニメ放送やゲームも制作されている「大人気バスケット漫画」です。
連載当時から「スラダン」の愛称で人気がありました。
そんな、今でもまだまだ根強いファンがいる「スラダン」ですが、教師(理科)をしていたせいでしょうか。
ある日読み返した時にふと、あるシーンで手が止まりました。
問題のシーンはこちら
漫画連載では「#193 全国が危ない」アニメ放送では「第91話 全国が危ない!」で登場する赤木式問題集<物理>です。
この回の話を簡単にお話すると
- 赤点が4つ以上ある学生はインターハイに行けないという校則が、舞台となっている神奈川県立湘北高校には存在している。
- スラムダンクの主人公、桜木花道を筆頭に、主役級のチームメートはもれなく欠点科目を複数保有している。
- バスケット部キャプテンである赤木剛憲(通称ゴリ)の家で、勉強合宿。
- 追試に挑む。
といったようなお話です。
花道のテストの珍回答に笑った小学生時代、しかし今では疑問に思うことがある
初めて読んだ時はもちろん、今まで何度も見たこのシーンは「このくらいの角度」と答える、答え方にインパクトがあります。
少なくとも小学生だった時は、私も大いに笑った記憶があります。
あなたもそうかもしれませんね。
しかし、子どもの頃には笑うことしかできなかったスラムダンクの1コマを改めて見たところ、いろいろと疑問を感じてしまったのです。
スラムダンクに登場する赤木式問題集<物理>を再現してみた
とりあえず疑問を解消するためにこのシーンの1コマから、拾えるだけの情報を集めて赤木式問題集<物理>を再現して見ました。
台詞や文字かぶりがあるところは、わからなかったので黒く塗りつぶしています。
書体の正確性は求めていませんので、改行の位置や書式については、全く気にしていません。
完全再現とはいいませんが、漫画に書かれている「赤木式問題集」の内容については合っています。
ゴリが作った問題は大きく2つです。
- 斜方投射の問題
- 等速円運動の問題
当時では何も感じなかったのですが、現在の私はこの問題が引っかかりました。
そもそも、県立高校の1年生がこの問題を解けるか?
最大の疑問点がこれです。
ということ。
今から約20年前、マンガ連載(アニメ放送)当時の高等学校学習指導要領(理科)を見ると、当時の物理は「物理ⅠA・ⅠB」と分けられており、上級科目として「物理Ⅱ」が存在しているような科目設定でした。
そして多くの県立学校では
- 高校1年生(又は2年生)に、1年かけて物理ⅠAまたはⅠBを学習し
- 進級した後、必要に応じて物理Ⅱを履修
します。
第3 物理ⅠB /1 目標 /物理的な事物・現象についての観察、実験などを行い、物理学的に探究する能力と態度を育てるとともに基本的な概念や原理・法則を理解させ、科学的な自然観を育成する。
引用 物理ⅠB 学習指導要領
第4 物理Ⅱ /1 目標/物理的な事物・現象についての観察、実験や課題研究などを行い、物理学的に探究する能力と態度を育てるとともに基本的な概念や原理・法則の理解を深め、科学的な自然観を育成する。
引用 物理Ⅱ 学習指導要領
この当時はゆとり教育じゃなく、土曜も半日授業。
高校生が学ぶ理科は物理、化学、生物、地学の中から3科目を、皆が勉強していた時代です。
スラムダンクの桜木花道は、当時高校1年生。
補習の時期(1学期終了後)を考えると、中学を卒業してから、まだ2~3ヶ月しか経っていません。
私が疑問を抱いたのは
ということでした。
ゴリさん、この問題難しすぎやしませんか?
再現を見ていただくとわかりますが、問題は2問。
- 1問目は物理ⅠB「力と運動:落体の運動」という分野
- 2問目は物理Ⅱ「円運動と万有引力:等速円運動」という分野
2分野から、出題されています。
神奈川県立湘北高校は(設定では)県立高校普通科のようですので、当時の普通科高校の、ごく一般的な学習指導計画なハズです。
しかし、そうなると次のような矛盾や可能性が考えられてしまうのです。
花道が、すでに物理Ⅱを習っている…
これが最大の驚きでした。
これが確かなら、桜木花道は考えられないくらいの超エリートコースに在籍しています。
高校に入ってすぐの中間テストまでに、物理ⅠBの学習を終え、期末テストの範囲で物理Ⅱの内容に入った。
そのテストで赤点を取った桜木花道は、ゴリの家で勉強合宿。
当然補習内容は実施したテスト範囲をやるはずなので、物理ⅠB・物理Ⅱ両方の内容を、対策している。
これなら、赤木式問題で2分野にまたがって対策を取っていたのが頷けます。
繰り返しますが
- 1問目は斜方投射は物理ⅠBの内容
- 2問目は等速円運動は物理Ⅱの内容
なんですよ。
高校1年生の夏休みの補習(の対策)で物理Ⅱまで扱うなら、どう考えても1・2か月(のたった60日にも満たない期間)で、あっという間に物理ⅠBを終わらせたことになります。
ってか、よくよく考えればこのテスト。
物理IBと物理Ⅱの内容が、同時に出題されています。
桜木花道は、中学を卒業して
- 通常1年かけて教えてもらう物理Ⅰの内容を、わずか2ヶ月足らずで教え込まれた。
- 期末テスト前に、既に物理Ⅱの学習がスタート。
- その後、テストで欠点を取ってしまったために、夏休み補習を受ける羽目に。
と考えられます。
おぉ、なんてことだ。
たった3か月足らずで、物理ⅠBと物理Ⅱを学習内容に設定していることになります。
これは完全に、そんなカリキュラムを組んでいる学校が悪い!
そもそも物理の基礎的な内容を、1年かけてやるのでもしんどいのに、それをたった2ヶ月でやろうなんて。
花道の「天才ですから」は、きちんと裏付けされた台詞だった
いや、ちょっとまてよ。
確かに桜木花道以外のクラスメイト達は、このカリキュラムで欠点を取っていなそうですよね。
これはこれで、驚きです。
そうなると、湘北高校は「超進学校」である、これを認めなくてはいけません。
超進学校の(可能性が高い)湘北高校に通う生徒達は、当然中学時代から勉強ができて、各中学校のトップ達が集結している学校と考えられます。
言わずもがな、そこに通っている桜木花道も中学までは成績上位だったということに…。
ひょっとすると、花道の口癖「天才ですから」は、相応の裏付けがあって発言していたのかもしれません。
ちなみに、流川楓は・・・
この「超進学校」理論が正しいのであれば、スラムダンク主要キャラクターの一人「流川楓」は、よりすごい人物になります。
流川が湘北高校に進学を希望した動機、それは「近かったから」という至極単純な理由です。
そんな理由にもかかわらず「超進学校」である湘北高校に入学できてしまっている流川の実力は、計り知れないものがあります。
その上、全国選抜にも選ばれる運動能力を有していて、イケメン。
天はこの男に、三物も与えてしまっています。
ゴリの作成した予想問題が、花道のための問題では無かった
「超進学校」理論の次に考えられるのは、ゴリが作った赤木式問題集<物理>が
桜木花道のために用意された難易度じゃ無かった可能性。
これが、浮かび上がってきます。
キャプテンのゴリ(赤木)は、高校3年生。
- 進学補習を受けている描写があったり
- 難しい問題もすらすら解いていたり
漫画内の描写から推察するに、ゴリは(理系の)進学クラスに在籍していそうです。
そんなゴリからすれば花道が習っていることの内容など、2年前の内容です。
さらに受験勉強をしている最中であろうゴリは、「物理ⅠB」「物理Ⅱ」といった難易度による科目の棲み分けをせず、物理を系統的に勉強していたかも知れません。
受験勉強よりも大事な、インターハイ予選の直前。
2コ下の後輩が欠点を取ってしまい
そんな考えで作成されたのが、あの赤木式問題集だった可能性があります。
そこでゴリは(力学分野全般から)普段通りに、問題を作成してしまった。
このように「超進学校理論」以外の可能性としては、ゴリの「出題範囲ミス(問題設定ミス)理論」も十分考えられます。
花道よ、今こそゴリの脳天にスラムダンクをかますのだ!
出題範囲ミス理論が正しいとすれば、桜木花道に同情するしかありません。
花道が習ってない物理Ⅱの内容「円運動の問題」を出題されながらも、花道の回答はイラストを見る限り
と、学んでもいないのにもかかわらず、考えながら答えを出しました。
しかしゴリは、「プルプル」と震えながら、怒りがこみ上げてきていらっしゃるご様子。
「こっちが一生懸命教えてるのに、ふざけられたらムカツク!」という感情は、教師をしていたのでわからなくもないですが、そもそも花道にとってみれば、あなたが作った問題は「習ってない内容」です。
あえて言うと欠点を回復するのが欠点補習なので、欠点(=最低限の知識理解が出来ていないと判断する)内容を、補習すればいいだけなんです。
欠点補習のレベルではない高難易度の問題に対して、桜木花道は白紙回答をせずに彼なりに答えを出しています。
さらに言えば、1問目は「×にはしにくい」ほどの回答をしています。
それなのに、ゴリがキレるなんて筋違い。
むしろ花道の方こそ「難しすぎるわ!」と、今こそゴリの頭にスラムダンクを炸裂しなくてはなりません。
最後に
いかに桜木花道が超エリートだったか、頑張っていたかということは、伝わったでしょうか。
こんな難しい問題を(学校が原因かゴリが原因かはわかりませんが)花道は解かされていたのです。
当たり前のように欠点回避しているクラスメイト達を考えると「神奈川県立湘北高校は超進学校」理論が正しいかもしれません。
そうなると、桜木花道は超エリートの進学校に在籍している、ということになりますね。
スラムダンクに登場する神奈川県立湘北高校のモデルになった学校は、神奈川ではなく東京にある「東京都立武蔵野北高校」だと言われています。
ちなみにこの高校の偏差値は65だそうです。
単純に、偏差値から考えれば上位7%以内に入りますので、いわゆる進学校の部類です。
やっぱり、花道の「天才ですから!」という台詞は、自信の裏付けがあったのかもしれませんね。