大西洋に浮かぶ「バミューダトライアングル」は、船や飛行機が次々と消えたと語られる”魔の海域”です。しかし、その正体は本当にオカルトなのでしょうか。この記事では、バミューダトライアングルとは何かという基本から、12月5日の「バミューダトライアングルの日」の由来、メタンハイドレートをはじめとする海底の謎、そして「実は危険ではない」とする科学的な見解までわかりやすく解説します。
バミューダトライアングルとは?
バミューダトライアングルとは、アメリカのフロリダ半島(マイアミ周辺)、大西洋上のバミューダ諸島、カリブ海のプエルトリコの3点を結んだ、おおよそ三角形をなす北大西洋上の海域を指す呼び名です。この3つの地点を頂点とすることから「三角(トライアングル)」と呼ばれています。
重要なのは、この海域には公式な境界が存在しないという点です。国際機関が認定した区域ではなく、公式の海図にも載っていません。書き手によって範囲の取り方が異なるため、面積の見積もりにも幅があります。報道では約70万平方キロメートル(約27万平方マイル)とされることが多い一方、定義を広く取って100万平方キロメートル超とする資料もあります。「どこからどこまで」が決まっていないこと自体が、この伝説のあいまいさを象徴しています。
「バミューダトライアングル」という名前の由来
「バミューダトライアングル」という言葉を最初に使ったのは、アメリカの作家ヴィンセント・ガディスです。彼は1964年2月号の男性向け雑誌『アーゴジー(Argosy)』に「The Deadly Bermuda Triangle(死を招くバミューダ・トライアングル)」という記事を寄稿し、この呼び名を世に広めました。その後、1974年に出版されたチャールズ・ベルリッツの著書『The Bermuda Triangle』が世界的なベストセラーとなり、超常現象の象徴として一気に有名になりました。
基本データ
| 所在地 | 北大西洋西部(アメリカ南東沖〜カリブ海) |
|---|---|
| 範囲の頂点 | フロリダ半島南端・バミューダ諸島・プエルトリコ |
| 面積の目安 | 約70万〜150万平方キロメートル(資料により差あり) |
| 名称の由来 | 作家ヴィンセント・ガディスが1964年に雑誌『アーゴジー』で使用 |
| 記念日 | 12月5日(1945年のフライト19事件に由来する通称) |
| 公的な扱い | アメリカ地名委員会・海軍・沿岸警備隊は正式な地名/危険地帯として認めていない |
「バミューダトライアングルの日」とは?
「バミューダトライアングルの日」は毎年12月5日とされています。これは1945年12月5日に起きた、アメリカ海軍機の集団失踪「フライト19事件」に由来します。この日が、バミューダトライアングル伝説を象徴する出来事として記憶され、記念日として語られるようになりました。なお、これは国の法律などで定められた公式の祝日・記念日ではなく、愛好家や関連施設を中心に広まった通称である点に注意が必要です。
記念日の発端となったフライト19事件とは
フライト19事件とは、訓練飛行に出た米海軍の雷撃機が編隊ごと消息を絶った出来事です。1945年12月5日の午後、フロリダ州のフォートローダーデール海軍航空基地から、チャールズ・テイラー海軍中尉が率いる5機のTBMアベンジャー雷撃機が飛び立ちました。ところが飛行中に方位を見失い、無線で混乱したやり取りを残したまま、14名の搭乗員とともに行方不明になります。
さらに悲劇は重なります。捜索のために出動したPBMマリナー飛行艇までもが、13名の乗員を乗せたまま帰還しませんでした。この飛行艇は空中で爆発した可能性が高いと考えられていますが、確証は得られていません。合わせて27名が失われたこの事件が、後に「魔の海域」の物語を決定づけることになりました。悪天候、燃料切れ、方位磁石の不調が重なった遭難だったとする見方が有力ですが、機体が発見されていないため、いまも謎の多い事件として語られています。
バミューダトライアングルの正体
バミューダトライアングルの正体として最有力なのは、超常現象ではなく自然現象と人為的ミスの組み合わせです。ここでは、研究者が指摘してきた代表的な説を一つずつ見ていきます。
メタンハイドレート(海底ガス)説
メタンハイドレート説は、海底から噴き出すガスが船を沈めるという考え方です。メタンハイドレートとは、低温・高圧の海底にある、メタンガスと水が氷のように固まった物質のことです。これが崩れて大量のガスが泡となって海面に向かうと、海水の密度(濃さ)が一時的に下がり、浮力を失った船が通常よりも沈みやすくなる可能性が指摘されています。放出されたガスが引火すれば、上空の航空機に影響する余地もあると考えられています。
2014年にはアメリカの研究者らが、ガス爆発でできたとみられるクレーターの存在を手がかりに、この仮説を論じています。ただし、この海域の海底で大規模なガス放出があったのは数千年以上前とされ、近年の失踪を直接説明できる証拠は確認されていません。あくまで理論的な可能性にとどまる点を押さえておきましょう。
悪天候とガルフストリーム(強い海流)説
最も現実的とされるのが、荒天と強い海流による遭難説です。バミューダトライアングルは、ハリケーンや熱帯低気圧が頻繁に通過する地域にあたります。さらに、アメリカ東海岸に沿って流れる「ガルフストリーム」と呼ばれる速い暖流が走っており、天候や海面の状態が短時間で激しく変化することがあります。沈没した船の残骸がこの海流で遠くへ運ばれ、「跡形もなく消えた」ように見えてしまったケースも少なくないと考えられています。
六角形の雲「エアボム」説とその批判
六角形の雲が強風を生むという「エアボム(空気爆弾)」説は、話題になった一方で専門家からは強く否定されています。2016年、アメリカのサイエンス・チャンネルの番組が、バミューダ海域で見られる六角形の雲が時速160km級の突風と高い波を生み、船や飛行機を襲うのではないかと紹介しました。
しかし、この説はその後の検証で評価を落としています。番組に登場した気象学者ランダル・セルベニ氏は「あくまで仮説として述べただけだ」と釈明しており、同じような雲の模様は北海沖でも見られるのに、そこで事故が多発しているわけではありません。マイアミ大学の大気科学者ブライアン・ソーデン氏はこの理論を「ゴミ(garbage)だ」と一蹴しています。査読を経た研究ではない点も含め、確立した説明とはいえません。
人為的ミスと「統計のトリック」
見落とされがちな正体が、操縦・航海ミスと統計の読み違えです。バミューダトライアングルは世界有数の交通量を誇る海路・空路でもあります。通行量が多ければ、それに比例して事故の件数も増えるのは自然なことです。つまり「事故が多い」という印象は、必ずしも「異常に危険」を意味しません。くわえて、実際には嵐のなかで沈んだ船が「穏やかな日に消えた」と脚色されたり、三角形の外で起きた事故が内側の出来事として語られたりと、話が誇張されてきた側面も指摘されています。
バミューダトライアングルの海底には何がある?
バミューダトライアングルの海底にあるのは、巨大な海底構造物ではなく、ごく一般的な深海の地形です。海底には先ほどのメタンハイドレートが広く分布しているほか、カリブ海の島々の周辺には「ブルーホール」と呼ばれる深い縦穴や、急に浅くなる浅瀬が点在しており、航海の難所になっている場所もあります。
一方で、インターネット上では「海底に巨大なクリスタル(水晶)のピラミッドが眠っている」といった話も広まっています。しかし、こうした主張を裏づける学術的な調査結果や信頼できる一次情報は確認されていません。海底の地形は科学的に説明できる範囲にとどまり、人工物や超常的な装置が見つかったという確かな記録はないのが現状です。正体不明の現象を人間がドラマチックに解釈してしまう点では、言葉や作品が怖く感じられる心理と似ており、意味が後づけされる「蛇化現象」とは何かという解説や、「モナ・リザ」が怖いと言われる理由にも通じるところがあります。
まとめ
世界にはまだまだ不思議な現象や、日本では取り上げられていないような知られていない場所があって面白いですよね。そしてこのバミューダトライアングルは結論から言えば、他の海域より特別に危険だという証拠はありません。アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、この海域で失踪事故が他の広い外洋より高い頻度で起きているという証拠はない、と明言しています。アメリカ沿岸警備隊も、バミューダトライアングルを船や航空機にとって特別な危険地帯とは認めていません。
保険の世界でも同じです。世界的な保険市場であるロンドンのロイズは、この海域を通過する船に対して特別に高い保険料を課していません。つまり、巨額のリスクを扱うプロの目から見ても「普通の海」として扱われているということです。2013年に世界自然保護基金(WWF)がまとめた調査でも、バミューダトライアングルは世界で最も危険な海域トップ10にすら入っていませんでした。神秘的に語られる場所が実際にはそうでもない、という場所は沖ノ島が怖いと言われる理由などのように、噂と実態が食い違う他のスポットと同じととらえていいでしょう。

